俺を呼ぶ声と、ぺちぺちと頬を叩く感覚に意識が浮上する。
瞬きを数回すると周りの様子が見えてきた。
どうやら俺はソファーに横になったまま眠ってしまったらしい。
ついでにいうと、寝違えたのか若干首が痛い。
そこで初めて腹の上に乗っている生き物に目を向けた。
頬っぺたを膨らましてご機嫌は大変よろしくないようだ。
「、」
「………」
「いまなんじじゃ」
「、しらんっ」
ぷいっとそっぽを向いてしまった。
仕方なく上に乗ったを落とさないように身体を起こして時計を見ると午後3時。
あー成る程。
拗ねてる理由がわかった。
今回は、完全に俺のせい。
「ごめんな、腹減ったじゃろ」
「へってないっ」
「悪かったって」
いつもは遅くとも1時には昼飯を食ってるが、今日はなんと3時。
さすがに2時間も放置されれば仕方ないか。
宥めるように頭を撫でてみても効果はないようだ。
思わず苦笑が漏れるが、それが更に気に入らなかったようで、俺の手から逃げるように頭を動かす。
けど上から退こうとしないのはこいつらしいというかなんというか。
つーか丸々3時間も寝てたのか俺は。
その間放置されていたのことを思ったら胸が痛んだ。
よく見てみれば少し目が潤んでる。ああ本当に悪いことをした。
「後で買い物行こうな」
「いかないっ」
「はプリン食べたくなか?」
「な、いっ」
(お、あと一押し)
「そういえばこの前、丸井が駅前のプリンが美味いって言っとったのう」
「ううう…」
なんとも分かりやすい。
どうやら素直じゃないうちのお姫さまは、行きたい食べたい、けど誤魔化されてたまるか(どうやら学習したらしい、
最近この手になかなか引っ掛からなくなった気がする)、というまあ所謂板挟み状態に苦しんでるようだ。
ジレンマに悩んでる姿はなんともアホらしくて、可愛らしい(誰だ親バカとか言ったやつ)。
そのまま決着が着くのを待っててもいいが、今回は待たない方がよかったみたいだ。
どうやらまとまらなかったらしく、みるみるうちに涙が溜まっていって、ついには溢れだした。
(やり過ぎたか)
うっうっと嗚咽を漏らすの背中を叩きながら立ち上がった。
俺の首に頼りない腕を回して必死にしがみついている。
震える小さな熱の塊に、一種の安心感を覚える。
しっかり聞こえてくる鼓動が心地よかった。
しばらくそのままでいると、落ち着いてきたのか、しがみついている腕の力が弱まった。
離れる熱を物寂しいと思いながらも少し身体を離す。
目に入ってきたのは涙でぐちゃぐちゃになった顔で、なんだか痛々しく見えて濡れた頬を指で拭ってみた。
すると、おなかすいた、とこぼす。
一瞬呆気にとられたが、まったく自由な奴だ(俺も人のことは言えないけど)と内心笑いつつを下ろして、飯にするか、と言うと嬉しそうに頷いてキッチンに駆けていった。
あいつの背中を見送りながら、ふと開け放たれたガラス戸の方を見ると、風でふわふわて動くレースのカーテンと何処から飛んできたのか桜の花びらが数枚。
一枚拾い上げて指先で弄んだ後、さっきの夢を思い出して、ぽいっと外に投げ捨てた。
投げ捨てたといっても花びら。
少しの間空間を漂っていた。それに挑発するように、
「誰が、やるか」
一言。
地面に落ちるのを見届けることなく踵を返す。
あいつの待つキッチンへ。
余程腹が減っていたのか、早く早くと俺を急かす。
さっきまでの涙は乾いたらしい。
なんとも切り替えのはやい。
それに笑ってエプロンを着ける。
そうだな、おやつも兼ねてホットケーキにしようか、。
うつつ
(080427)
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