お年頃とはいったもので、と言ってもそのお年頃真っ只中のあたしが言うのもおかしな話なんだけど、どうして付き合ったとか別れたとか、そういう話が好きなのかということがすごく疑問だったりする。
大半がテニス部関係(特に銀髪)だったりするわけなんだけども、まあよくそんな情報を仕入れてはきゃーとかいやーとか騒いでる。

まったく、暇というかなんというか。





「楽しい?」


そんなことを考えながら、ぼーっとクラスの女子たちの方を眺めていたら、不意に話し掛けられた。
声のするほうに視線を向けると、例のテニス部の部長さまが天使の微笑み浮かべてお立ちになっていた。
何げに同じクラスだけど、話したことはなかったかな。


「何が?」
「彼女たち。さん、じーっと見てるみたいだったからさ」
「そうだった、かな」
「うん。随分つまんなそうに彼女たちを見てたみたいだけど」


よく見てるなあ。
あたしが苦笑すると、幸村はそのままあたしの前の席に腰を下ろした。


こんなに近づいたらファンの連中に目をつけられはしないかと内心冷や冷やしたけど、なぜか教室の雰囲気は変わらず。

むしろ変わったのはあたしと幸村の周囲で、世界から切り離されてしまったみたいだった。


「そんなことないよ、楽しそうだなーって思ってた」
「全然そうは見えなかったけど」
「そんなに他人の恋愛話は楽しいのかなあって。あたしにはいまいち、面白さがわからないからね?」


ちょっと皮肉を込めてそう言うと、幸村も彼女たちの方を見、ああなるほど、と笑った。
その笑い方がいつもの微笑みと若干違っていて、本能的に危険を感じたけど、次の瞬間にはもとに戻っていた。

なんだか見てはいけないようなものを見てしまった気がする。
今の笑顔は見間違い。
忘れよう。
うん、それがいい。

そう自分に言い聞かせて視線を戻すと、彼女たちはまだおしゃべりの続き。
今度の話題は丸井くんらしい。




小林さんって丸井くんと付き合ってたんじゃなかったの?
こないだ別れたんだって。
一ヵ月も経たないのに?
なんか振られたらしーよ。
テニスとあたし、どっちが大事なの、って聞いたら、テニス、って速答されたらしい。
速答かよ。
今度の狙いは新田くんだってさ。
ほらサッカー部キャプテンの。




いやー、凄まじい情報収集力だよね。
うーん、脱帽!
どこからそんなの入手してるんだろ。
まあテニス部のだから、と言ってしまえばそれまでだけど、結構恐ろしいものがある。
壁に耳あり、障子に目ありとはまさにこのことじゃない?


これ、柳くんもびっくりだよね、きっと。
ふふっ、柳くんが驚いてるとことか、想像できないなあ。

最終的に脳内には、わたわたしてる柳くんが出来上がってしまって、思わず吹き出しそうになったけど、幸村がいる手前、そういうわけにもいかない。
仕方なく笑いを噛み殺すと、幸村が微笑みながら、じーっとあたしを見ていることに気がついた。



「幸村…、くん?」
「ねぇ、さん」
「は、はい?」
「俺と一緒に、彼女たちに話題提供とかしてみる気、ない?」
「…うん?」


あれ、あたしの記憶違い?

確か彼女たち楽しそうだね、って話しかしてないはずだけど。
今までの流れで、どうやったらそこにたどり着くのか、説明してもらってもいいかな。

ねえ君お茶しなーい?みたいなナンパよろしくなノリで言われてるけど、明らかにそれはナンパとはかけ離れたものであって。
向こうで他人の恋愛話に花を咲かせてる女の子ならはい喜んで、と嬉々として即答できるのだろうけど、この目の前の男の腹の内をほんのわずかでも感じてしまったあたしは、素直に返事をすることができない。

というか、したくないというのが本音だけれども。


幸村は、そんなあたしの心を知ってか知らずか(たぶん前者)、例の天使スマイルでどうかな?と是非を問うてくる。



選択肢は少なくともふたつはあるはずなのに、是の選択肢しかない気がするのはただの気のせいなのだろうか。















限りなく黒に近い白




















(080305)