「、と、帰んなきゃ、」


目が覚めて携帯を見ると、20:17。
随分寝すぎたらしい。
ここからうちまでは30分ぐらいだから、まあ9時前には着く、かな。

隣に眠る男を起こさないようにベッドから降りると、床に落ちた服を掻き集めて、身仕度を整えていく。


「送って、行きましょうか」


寝起きのせいか、若干声が擦れてる。
服を着ながら声の方を向くと、もぞっと布団の山が動き、寝ていた人物が起きたのがわかった。

どうやら柳生を起こしてしまったらしい。
柳生はというと、上半身を起こして、寝呆け眼でこちらを見ていた。
寝呆けてるせいもあって、心なしかやけに色っぽい。


いつもは隙なんて見せない彼だけど、ほとんど無防備な様子に、思わず笑みが漏れた。


「ごめんね、起こすつもりはなかったんだけど」
「今、何時でしょうか」
「8時20分くらいかな。大丈夫、一人で帰れるから」


ですが、と言う柳生に大丈夫大丈夫、と適当に返事をしながら準備を進める。

鏡で髪と服装をチェック。
よし、完璧。


それじゃあまたね、といつもの台詞を吐いて部屋から出ようとすると、柳生に呼び止められた。
なんだろうと思って振り返ると、だいぶ眠そうなご様子で右手をずいっと差し出す。

あ、ちゃんと下は履いたらしい。


「これ、忘れ物です」
「ほんとだ。ありがとね」
「いえ。それでは、」
「、っ!?」
「気を付けて、くださいね」


ちゅうっとおでこにキスをひとつ。
突然の行動に、惚けたあたしのことなんてお構いなしにドアを閉める柳生。

ドアが閉まる音で我に返り、思わずぬくもりが残るおでこを押さえる。
え、なに、今の。
柳生とはキスどころか、それ以上だってしてるけど。

でもおでこに、なんて。


走ってもないのに速くなる心臓。
朱に染まる頬。
こんなこと今までなかった。



どうしよう、あたしおかしい。
















初めて感じたぬくもり




















(080316)



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『宵闇に瞬く輝き』様に提出。