なんだなんだ。
なんなんだ。
「………」
「、……」
「………」
「……、」
背中に射殺さんばかりの視線を感じて、出所を探せばあっさり見つかった。
真後ろ(しかもかなり近い)にボスが仁王立ちしていらっしゃった。
なにか用なのかなと相手を待つこと10分。
いい加減疲れてきた。
言いたいことがあるならさっさと言ってくれればいいのに。
おかげで、恋人同士ならなんともあまーい空気が漂ってきそうなシチュエーション、でも哀しいかな、そんな雰囲気は1ミリ、いや、カスほどもない勢いでお互いを見つめ合っている、あたしとボス。
あああどうしろっていうの、このまま視線を合わせたままっていうのはだいぶキツい。
身体的(首痛い)にも精神的(死ぬかもしれないスリル)にも。
「…ボス、なにか」
「うるせえ」
のぅ!
折角あたしがなけなしの勇気を振り絞ってこの沈黙を打開しようと話しかけたのに。
一言で切り捨てられた。
しかも、慎んで遠慮したいんだけど、心なしか眼光が強くなるというおまけ付きで。
あっはっはっ、なに死刑宣告かい、これは。
「おい、」
いやいや、そうは言ったって、どう考えてもボスにかっ消される理由がわからない。
まあそもそも、気に入らない、の一言で人を炭に変えるような人だからね、逆に理由がある方がびっくりなんだけど。
「てめえ…」
「っ、はいっ!」
考え込んでしまったせいで返事が遅れた。
不可抗力だよ不可抗力。
いやな沈黙で思考回路が麻痺したんだって。
そんな全面的に不愉快さを醸し出さなくてもいいと思うんだ。
もれなくあたしの寿命が縮む。
「だから、」
「はい」
「目ぇ瞑れって言ってんだよ」
「は?」
聞き返したのが気に入らなかったのか、眉間にシワを寄せるボス。
もちろん、いつ言ったんですか、なんて聞ける筈もなく。
多少の理不尽はいつものことだと自己完結して、このまま見つめ合うのは勘弁、と判断したあたしは、ボスの命令?通り目を瞑ることにした。
数秒後には無言の悲鳴をあげる羽目になることも知らずに、呑気に、ベルたちはどこ行ったのかな、とか考えながら。
あ、今遠くで溜め息が聞こえた気がする。
目瞑らないとキスできない
(080419)