064:切先(きっさき)
「何すんだよ」
目を開けると天井を背景に無表情なが俺を見下ろしていた。横目で確認すると、首のすぐ横には苦無が突き刺さっていた。俺が避けたからいいものを。こいつ、本気で狙いやがったな。
「俺を殺す気か」
「まさか」
は布団に刺さった苦無を引き抜くと無造作に後方に投げ、その手を俺の胸の上に置いた。
「馬鹿は殺しても死なないらしいから」
包帯越しにの体温を感じる。こいつも、面倒な奴だ。
「……バカタレ」
196(110717)
065:伝え方
「い、」
「一回寝たくらいでとは言うかもしれないけど。たかが一回されど一回。状況は状況だったけど少なくとも抵抗はされてないし僕は同意の上だったって思ってる。それとも僕のこと、据え膳なら見境なく頂くような男だって思ってるわけ?」
口を挟む間もなく話す伊作の言葉を寝起きの頭で処理できるわけもなく項垂れる。
「そんなに一度に言われても……」
「これでも焦ってるんだ。が寝ぼけてるうちにどうにかしないとってね」
200(110822)
066:流れ
どうしてこうなった。隣でうつ伏せに眠る伊作を横目で見た。とりあえず起きたら面倒だ。寝てるうちに帰ろうと思いながら、上に乗る腕退けて脱出を図る。布団から出たところで腕を引かれた。
「おはよ」
髪の間から見える伊作の目が存外しっかりしていた。狸寝入りか、こいつ。
「……オハヨウゴザイマシタ」
「覚えてないとか、言わないよね」
有無を言わせない言い方に、目を逸らした。
「……忘れたかった」
「そう。それならよかった」
200(110820)
067:不思議な感じ
「えっ」
思わず驚いて立ち止まると、ドアを開けてくれたギルまでえっと驚いた顔をする。偉そうで俺様で鬱陶しいだけじゃないのは知ってたけど、こういうのは意外というか。これがフランシスとかなら驚かなかったのに、ギルがあまりにも自然にやるから。
「どうした?」
不思議そうに首を傾げる。こんなに様になるとは思わなかった。首を横に振ってドアを押さえるギルの横を通り過ぎた。
「……Danke」
「Bitte schon」
200(100924)
074:波紋
呼吸をするように口から出てくる言葉。いつも通り、愛してるよ、との耳元に囁いた。俺を振り返った彼女は、予想に反して無表情だった。
「な、なに?」
頬にの手が添えられた。いつもの彼女なら赤くなって顔を背ける距離だけど、今日に限っては表情は変わらなかった。
「ねえ」
あまりにもがまっすぐ俺を見るから。俺の方が耐えられなくなって顔を背けようとしたけど、彼女の手に邪魔された。
「どこ見て、言ってるの?」
196(110717)
079:つぶやき
忍術学園の夜は面白い。
熱心に自主練をしている子もいるのだが、鍛練に熱心な子だけではないようで、くのいち教室の長屋に忍んで行くのを何人か見かけた。そう簡単に忍びこめないようになっているらしいが、まったくご苦労なことだ。
「おや」
少し離れたところで、よく知る彼と女の子が何やら押し問答をしているのが見えた。不思議に思っていると彼が女の子を引き寄せた。あの人が、仮にも、生徒相手、に?
「……そのまさか、か」
199(120520)
080:感触
さっきまで俺の首にかじりついていたは、今は伊作に抱えられて何やら唸っている。伊作は困ったように笑いながらの背中を叩いているが、困ったなんて微塵も思っていないことを俺は知っている。
「お前、いい加減伊作から下りろよ」
「妬かないでよう。ちょっとくらい伊作借りてもいいじゃないの。すぐに返すから」
煩いと眉間に皺を寄せたに、違うと舌打ちをした。何気なくが噛みついていたところに手を伸ばすとぬるりとした。
200(110926)