041:馴染み
隣で眠る先輩を起こさないように手を伸ばして窓を開けた。澄んだ冷たい空気が部屋に入ってきて寝起きの体を冷やす。今日は冷えるな。毛布から覗く先輩の剥き出しの肩が寒そうだ。そう思っていると、やはり寒かったのかもぞもぞと毛布に潜りながら暖を求めて俺の方に擦り寄る。こうしてれば可愛いんだけどなあ。
「はち、さむい」
寒さで目を覚ました先輩の不機嫌そうな目に睨まれた。すんません、と苦笑して再び毛布に潜った。
200(110926)
047:同僚
轟音を立てて燃える建物を眺めながら溜め息を吐いた。これだけ派手に燃えていたら警察がくるのにもそう時間はかからないだろう。長居は無用と部下たちに撤収を伝えると、音もなく気配が散っていった。
隣に立っていたがぽつりと呟く。
「……お腹空いた」
くるりと方向を変えて建物から離れていった。少し歩いたところで立ち止まり、俺を振り返った。
「何してんの。帰ろ」
おう、と返事をして気だるげに欠伸を零すを追いかけた。
199(110717)
048:言葉よりも何よりも
駄々っ子なんだよ。溜息とともに先輩が言っていたのを思い出した。あの部長が?と思ったけど、目の前の光景を見たらなんとなく納得してしまった。
「だからさ、」
「」
部長が先輩の腕を掴んで何やら押し問答をしているらしい。結局、わかったから、と先輩が言うまで部長は先輩の腕を離さなかった。苦労してるんだ。離れてく先輩の背中を眺めていると、くるりと部長が振り返った。
「なんだ越前」
部長の顔はいつも通り無表情だった。
200(100725)
049:お酒
頭が酷く痛い。重い目蓋を開けながらベッドサイドに視線を動かすと、ベッドに腰掛けたの白い背中が見えた。なんでこいつ、服を着ていないんだ。
「?」
振り返ったは非常に不機嫌そうな顔をしていた。不機嫌の理由がわからない。だが、と俺の状態を見れば容易に想像がつく。つまり。やって、しまった。
「なに」
どうしようもなくて、強引にの腕を引きよせた。耳元で、ごめん、と言うと無言で鎖骨に噛みつかれた。
195(110717)
050:捕縛
後ろからお腹のあたりを引かれて、あっと思ったと同時に背中に衝撃。次いでふわりと嗅ぎ慣れた匂いがした。こんなことをする馬鹿はあいつだけだと頭を動かすと思った通り、銀髪が目に入った。少しは加減を知った方がいいんじゃないかな。内臓が出るかと思った。
「いきなりなんなの」
「んー」
成り立たない会話にはもう慣れたけど。離す気のない腕にふうと肩の力を抜いた。
172(100718)
051:ひととき
「何してんの」
いきなりかけられた声に驚いて振り返ると、入口のところに気だるそうに立っているフランシスと目があった。外ではあまりお目にかかれない、黒縁眼鏡に眠そうな目。完全におうちモード。
「黙っていなくなったら心配するでしょーが」
あまりにも熱心に本を読んでいたから、席を立ったことに気付くとは思わなかった。思わず、ごめん、と言うと、まあいいけど、と欠伸混じりに返ってきた。
「ほら。早く戻っておいで、」
200(100923)
053:告げる
「へんなかんじ」
の首筋から顔を上げると、目元を潤ませ緩い笑みを浮かべた目がこちらを見ていた。
「余裕だな?」
「……いっぱいいっぱい、だよ」
の顔を覗き込むと、僅かに目を伏せた。
「まさか仙蔵様が」
「様をつけるな」
ふふ、と笑ったは私の首に腕を回すと耳元に口を寄せた。かかる吐息にぞわりとしたものが走る。
「ありがたいんだよ、すごく。うれしい」
なきそうだ、と震える声で呟いたのこめかみに唇を落とした。
198(120302)
054:小さな小さな
「平太」
先輩に手招きをされたから、何だろうと先輩に近付いた。
「ここ」
そう言いながら膝を叩くから膝に座れってことなのかな。でも、そんなの恥ずかしい。そう思ってもじもじしていると、先輩は困ったように笑って僕の腕を引っ張った。どすんと倒れたものだから、おろおろしながら先輩を見上げると、機嫌よさそうに笑っていた。
「平太はあったかいね」
抱きしめられたのと肩に当たる先輩のおでこに、なんだか熱くなった。
198(120519)
059:崩れる
「さん、寝不足?」
んーと手に顔を埋めるさんは本当に眠そうだ。忍装束こそきっちり着ているが髪は結われておらず、ところどころ乱れていた。いつもは隙なく整っているのに、今日は珍しい。そんなさんの様子に笑いがこみ上げた。
「髪、結いましょうか?」
彼女は曖昧に返事をしつつ、頭を少し動かす。髪が滑り落ちて耳の下あたりに紅い痣が見えた。
……何だろう、大事なものが汚されてしまったような、そんな気分になった。
199(120527)
060:決まり事
「おいこらちょっと待て」
何かと思えば伸びてきた手にすっとネクタイが解かれた。えっちー、と言ってみたら、結び直すだけだ馬鹿!と怒られた。耳を赤くして暴言を吐きつつも手際良く結んでいく。できたぞ、と結び目を突いた。
「ったく、これくらい結べなくてどうすんだよ」
「アーサーが結んでくれるから大丈夫」
は?と言うから結んでくれないの?と返すと、まあ結んでやらないこともないけどな、と耳は赤いままそっぽを向いた。
199(100926)