未だとろとろと心地よい眠気が残る頭で、隣に流れる銀色の河に手を伸ばす。

それに触れてみると、少し冷たくて、あたしの指の間をさらさらとこぼれ落ちていった。


なんて綺麗な髪。


東洋人の髪質は西洋人のそれよりいい、という話を聞いたことがあるけど、ちょっと疑わしい。
自分の髪を見てみても、どれだけ手入れしても痛むものは痛むし。

そういえば、血って髪の毛によくないんだったっけ?
じゃあ職業的に無理じゃないか。



なのにそれに比べてスクアーロは。
ほんとに羨ましい。

本人曰く、ヴァリアークオリティーを駆使して洗ってるかららしいけど。
髪の毛にヴァリアークオリティーって。
生憎、あたしはそんな素敵なスキルを持ち合わせてないけど、どんなクオリティーなんですか、それ。

内心問い掛けながら梳いたり指を絡ませてみる。


当然、返答があるわけもなく。
なんかむかついたから、髪をはむはむと噛んでいると、頭をぐいっと引き寄せられた。


「なに、やってん、だぁ」
「起きたの」
「ゔぉ゙おぃ、一応、暗殺で食ってんだぜぇ、俺は」


ゆっくり頭の上から響く声は、低く、眠気を孕んでいて、まだスクアーロの意識は夢の中にあるんだとわかる。
ゆるゆると、引き寄せた頭を撫でるスクアーロの左手は、普段人を殺めているとは思えないほど優しかった。



その左手の動きがだんだんと緩くなっていくと思ったら、ついには止まり、代わりに穏やかな寝息が聞こえ始めた。


スク?

頭を上げて確認すると、どうやら夢の世界に帰ったらしい。
まったく、これであたしがスクアーロの命を狙ってたらどうするんだ。

そう思って右手を首に伸ばしてみた。
起きる気配はない。


触れた瞬間、急におかしさが込み上げてきて、そのまま首を撫でてみる。
身じろぎひとつしないスクアーロがさらにおかしかった。
暗殺で食ってるんじゃなかったの。

しばらく首を撫でていると、あたしの下で、とくんとくんと規則的に鼓動する心臓に、再びとろとろとし始める思考回路。


眠い。
今日の任務は…
うん、スクアーロがなんとかしてくれるよね、ボスを。

まあいいか、と納得すると、眠気に意識が遠退いていく。





あたしはそれに逆らわず、ゆっくりと、夢の中に堕ちていった。















春眠




















(080313)