「なあ、暇なんやけど」





そうですか。
私は忙しいけどね。
そう思いながらキーボードを叩く。
こたつの斜め前に座る男はスルーの方向で。
テレビでも見てれば…ってさっき私が消したのか。
なあなあなあ…って、ああもう!

「ね、うるさいんだけど!」
「ああ、やっとこっち向いた」

不機嫌を隠すことなく顔を上げると、顔を緩めた忍足と目があった。
思わず、忍足の醸し出す柔らかな雰囲気に、すっかり毒気が抜かれてしまう。
って、うっかり和んでどうする。
恐るべし、忍足侑士。

「暇なのはわかるけど、今は静かにして欲しいんですが」
「俺で休憩とか」
「しないからね。しかも休憩にならないでしょ、あんたの場合」

つれへんなあ…
わざとらしく肩をすくめてるけど、経験上これは事実だ。
忍足を構い始めると休憩で終わらなくなる。
というか、むしろ休憩が欲しくなる展開になる。
流されません、終わるまでは。

「なあ、ー」
「大人しくしようよー。ここは空気読むところでしょうよー」
「あえてやあえて」
「…あー流石にぶちキレたくなってきた」
「…とりあえずがちゅうしてくれたら静かにしとるよ」

怒らしたいわけやないし。
頬杖をついてそう苦笑した。
とりあえず、という言葉は引っかかったけど、大人しく従ってみることにする。
大人しくならなかったら…いいか、とりあえず殴っとけば。
若干物騒なことを考えつつ、目を瞑って準備万端な忍足に軽くキスを落とす。
顔を離そうとすると、すっとうなじのあたりを撫でられる。
猫とか犬とかじゃないけど、中々心地いいんだ、これは。
お決まりというか、一応予想はしていたけど。
…離れづらいじゃないか。

「…ちゅうしたら大人しくなるんじゃなかったの?」
「ちゅうしたら大人しくなるに決まっとるやん、口が塞がるんやから」

口封じーってな。
うなじを滑る手はそのままで、至近距離で唇に人差し指をあててウインク。
あー、なんかちょっと…可愛い、とか思っちゃったじゃないか、なんて。
…それにしても、雰囲気といいうなじを撫でる手といい。

「…伊達眼鏡は伊達じゃなかったのね」
「眼鏡は伊達やでー」
「眼鏡の話はしてませーん」
「ってことでもう一回な」

どういうことですか。
内心でつっこむ。
ぐっと距離をつめられ、整った顔が再び近付いてきた。
それを反射的に手で忍足の顔を押し返した。
そんなに力を入れたわけではなかったから、私は自分の手の甲とキスをする羽目になったけど。

「近い」
「今更やんかー」
「…近いです」
「なんや照れとるん?」
「照れますよ、この色男め」
「可愛いなあ、
「…どーも」

面白そうに目を細める目の前の男になんとなくむっとした。
押さえていた手をはずし、目の前の頬を包むように手を添えて額をくっつける。
普段はこいつがしてくることだから。
少しくらい動揺したらいいのに。

「…一回で、いいの?」

驚いたように目を見開いた。
一瞬だったけど。





確かにこいつを驚かすことはできたんだろう。
しかし私は、にやりと笑った忍足に自分の失態に気付くことになる。

「…まさか」

時既に遅し、後の祭りである。















ご容赦有れ




















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