ゆらゆらと浮き沈みを繰り返す意識。
 不意に頭上から聞こえた小さなくしゃみと、頭に伝わる小さな振動に、沈みかけた意識が浮上した。
 目を開けると顔を背けたの白い首筋が目に入った。
「…さむい?」
「ごめ…っていうか」
「なんじゃ、大丈夫か?」
「気遣ってくれるなら頭をどかしてくれると嬉しいんだけど?」
 鼻をすんとならして呆れたように首を傾げた。退く気はないと欠伸で返事をすると、はあと大袈裟にため息を吐かれた。
 見上げたのバックには抜けるような青い空。
 冬になって日差しが柔らかくなり、日向ぼっこには最適な季節になったが、流石に外は寒い。が寒がりだから冬はつらいと嘆いていたのを思い出した。
「ねえ。どうしたら諦めてくれるのかな、仁王くんは」
 微かに笑いながら俺の頬から髪に向かってをするりと撫でた。冷え症だと言っていたその手は相変わらず冷たかったが、気持ちよくて目を細める。
 付きまとうようなことをしてることを言っているのだろう。暇さえあればのところに通っているし、挙句の果てには今みたいにの膝を陣取ってを一人占めなんてことも少なくない。
 俺にしてみれば、会いたいから会いに行っているだけのこと。まあにしてみれば迷惑極まりないのかもしれないが。
 ―――俺が気まぐれでこんなことをしてると思ってるんだろうな、は。
 どうでもいい女を引っ掛けて何が楽しい?そんなことをするほど俺は暇じゃない。
 風に吹かれてさらりとの髪が流れた。俺の顔に影が落ちる。
「…のう、」
「ん?」
「どうしたら諦めてくれる?」
 が言ったのと同じ科白を口にした。勿論、込めた意味はまったく違うが。
 さっさと逃げるのを諦めて俺のものになればいいのに。俺がを諦める。そんな選択肢は始めからないのだから。
「仁王くんが諦めてくれたら、かな」
「無理な話じゃのー」
「じゃあ無理」
 が安心したように目を伏せたを見逃さなかった。
 すっと体を起こし、座っていたの腕を引っ張って自分の腕の中におさめた。そして、言い聞かせるように耳元で囁く。
「なあ。諦めて?」
 触れたの頭がほのかに暖かい。俺と一緒に日向ぼっこをしていたせいだ。
 そのままぎゅっと抱きしめながらうなじに顔をくっつける。の体温だ。暖かい。



 しばらくの匂いやら体温やらを堪能していると囁くような声が聞こえた。
「…わかった。降参する」
 少し体を離すと困ったような微妙な笑みを浮かべたと目があった。
「やっぱ仁王くんには敵わない」
 ―――が。
 が諦めて俺のものになってくれるらしい。
 やっと、やっとか。嬉しくなっての首筋にぐりぐりと頭を押し付けたら、くすぐったい、と腕を叩かれた。そんなことですら嬉しい。
 俺の、だ。



「…どうせ暇潰しのくせに」
 小さく呟かれた言葉に、ふっと笑ってこめかみにキスを落とすと、少し睨まれた。
「否定はせんよ」
「………」
「まあ。一生付き合ってもらうがの」
 当たり前だ。俺の暇はのためにあるんだから。
 は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに、なにそれ、とくすぐったそうに笑った。
幸福の 降伏
(101204)



Happy Birthday Nio!
I love you forever...