がちゃ、どす、どたどたどた。
「、さんっ」
一連の音が聞こえて、ぼふんと背中に重みを感じた。
折角、うとうとと夢と現実の間を行き来し始めたのに、一瞬で現実に戻される。
肩のあたりを往復している頭のせいで、髪の毛が首にあたってくすぐったい。
…というか、鬱陶しい。
「…にお、おもい」
「なあ、まさはるくん、帰ってきたんじゃけど。部活、すごい頑張ってきたんじゃけど」
「ここはあんたの家じゃないし、部活は好きでやってるんでしょうが」
「おかえり、お疲れさま、くらいあってもいいと思わん?」
「おかえり、お疲れさま。ってことで、早く退いてくれませんか、重い」
さん酷っ!とか喚き始めた仁王に本気で腹が立ってきた。
眠いんだって、私は。
無視を決め込むように、顔は未だ枕に埋めたまま。
けど、ちょうど腰のあたりに乗っている仁王のせいなのか、心なしか腰痛が酷くなった気がする。
仕方なく無理矢理上体を捻って起こすと、布団の上から馬乗りになっている仁王と目が合う。
途端ににっこりと嬉しそうに、はよ、と笑う。
そして、さん、寝癖、とはらりと前髪を払う仁王の手。
…嫌だ、なんかすごい泣きそう。
眠い重い退け、と文句を言ってやろうと思った自分が、すごく情けなく思えてきた。
思いっきり、八つ当たりじゃないか。
自然に俯くような格好になる。
「ど、どしたん?」
「なんでもない、」
「どっか、痛かった?」
俯いたまま首を振る。
顔は見えないけれど、きっと心配そうな顔をしてるんだろうな。
そう考えたら、益々自己嫌悪に陥る。
心配させたいわけじゃないのに。
ふっと自分にかかっていた重みが消えた。
少し顔を上げると、仁王がベッドから降りていた。
それから私をゆっくりと横にさせてくれる。
「生理、だったんやの」
「ん、」
「薬は?」
「さっき飲んだ」
「まだ、痛むかの?」
「少し」
「…すまん」
腰、辛かったのに、と申し訳なさそうに顔を歪める。
さっきに比べてだいぶ楽にはなってきた。
大丈夫だよ、と少し笑って言うと、すまんかった、と労るように腰のあたりを撫でてくれた。
しばらくそうしたあと、んじゃ、と立ち上がる仁王。
驚いて反射的に袖を掴んだ。
「ん?」
「帰るの?」
「んー、まあ」
「………」
「さん、寝るんじゃろ?邪魔したらいかんと思って」
確かに、このまま寝てしまうのは確実だと思う。
けど、帰って欲しいわけではなくて。
でも寝ちゃったら、この子を放置することになるだよな。
今の私に仁王を構ってあげる気力はないし。
…困った。
うーん、ここは帰らせるしかないかな。
そう思って言葉を紡ごうとする。
が、その前に仁王が何か面白いことでも思いついたかのように、にっこりと口を開いた。
「んじゃ、一緒に寝よ」
「えっ」
何が、んじゃ、なのかな、まさはるくん。
言うが早いか、私をまたいでベッドに潜り込むと、そのまま腰に手を回して後ろから抱きしめるようにくっついてきた。
密着。
ちょっと。
苦しくはないけれど、流石にこれは暑いんじゃないかな。
「…まさはるくん、暑いんですが」
「暖めた方がええんじゃろ?」
「そうだけど」
「なら問題なか。ほーら寝んしゃい」
ゆるゆると下腹部を撫でてくれる手には、いつものようないやらしさは全くなくて。
ただただ、安心感のみが伝わってくる。
まったく、私を翻弄させたり、安心させたり、素晴らしい手を持ってるよ、君は。
そのまま撫でられていると、仁王が触れているところから体が暖まってきたのか、ふわふわと眠くなる。
「おやすみ」
ぼんやりとした意識の中、額に降ってきたぬくもり。
なんだか、穏やかな気持ちになって、ゆっくりと意識を手放した。
一喜一憂
(081021)
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『fraud』様に提出。