もっと、この男はそう言ったか。
冗談も大概にして欲しい。
大体こっちは一般人なんだ。
テニスやってるお前とは体力が違うんだって。
「なあ、さん、もっと」
「もう、何回目だと、思ってるん、ですか」
「えーっと、確か、」
「誰も、そんなこと、聞いてない」
だってさんが何回目って、とかなんとか文句言ってる銀髪は、確か部活帰りとか言ってたはず。
なのに。
元気すぎるだろ。
「どこが部活でへとへとなの」
「さん見たら元気になった」
ああもう!
疲れて家まで帰れないとか言ったのは、どこの誰だ。
家に上げて、夕飯食べさせて、さあ帰れ、と言おうと思ったら。
じゃあデザートは、とベタな台詞を宣って、言葉どおりに食べられて、今に至るわけだけど。
「お前、いい加減帰れ」
「嫌じゃ」
「にお、」
「いーや」
「じゃあ離れてよ」
「それも嫌」
いやいやと首のところで頭を振るからくすぐったい。
ちょ、やめろって、くすぐったいから。
ついでに腰に回す腕の力も緩めてくれるとありがたいいんだけど。
「なーあ、」
「………」
「さん、って」
結局、何だかんだであたしは仁王に弱いわけで。
上目遣いが可愛いとか、まあ175を超えた中学生男子に可愛いはどうかと思いはするけど、うん、可愛いんだ、仁王は。
母性本能なのかな、とも思ったけど、嫌だ、こんな息子。
こちらから願い下げ。
はあ、と諦めのため息を吐くと嬉しそうに擦り寄ってくる仁王。
まったく、今夜も長くなりそうだ、と目の前の銀髪を撫でながら思った。
夜が明けるまで
(080212)