「ゆっきっ!」
「っ、と?」
「とりっく、おあ、とりーと!」
聞き慣れた声と、ぽふっと腰に軽い衝撃。
頭をだけ振り向くと、がぎゅっと抱き付いて、満面の笑みを浮かべていた。
それにつられて思わず笑みが漏れる。
体の向きを変えて、視線をあわせるのに腰を落とした。
期待に満ちた瞳が微笑ましい。
ここで期待を裏切るようなことはしない。
バッグの中から包装された小さな袋を取り出した。
「わあっ!」
「はい、どうぞ」
手渡すと、きらきらした顔でそれを眺める。
斜めに体に掛けている小さなバッグは、既に、溢れんばかりに膨れ上がっていて。
その様子からして、あいつらのところも回ってきたのがわかる。
回収は順調らしい。
あいつらもきっと、しっかり準備をしていたんだろうな。
みんなには甘いから。
…俺も人のことは言えないけれど。
ゆっき、ありがと、と喜ぶに十分満足し、どういたしまして、と言って立ち上がった。
手を繋ごうと手を差し出そうとして、そこで初めて彼女の格好をしっかりと見た。
どうやら今年は魔女仕様らしい。
動く度にひらひらと揺れる黒いスカートの裾がなんとも可愛らしい。
「随分、可愛い格好をしているね」
「、かわい?」
「可愛い。すっごく可愛い」
「えへへ、へへへっ」
くるりと一回すると、ふわりとスカートの裾が広がる。
もう一度可愛い、と付け足すと、あのねえ、とはにかみながら話し始めた。
どうやら、その衣装は柳生が用意したものらしい。
そして、仁王にも褒められたのだと頬を染めて嬉しそうに話す。
そうなんだ、よかったね、と頭を撫でながら返事をすると同時に、ふっと悪戯心が沸いた。
「…そうだ、」
「なーん?」
「Trick or treat?」
にっこりと笑って言うと、きょとんした。
始めは何を言われたのかわからなかった様だったが、段々理解してきたのか、不機嫌な表情になる。
ハロウィンはお菓子をもらう行事だと認識しているらしい。
専らもらう立場で、お菓子を要求されるとは思わなかったのだろう。
ごそごそと鞄の中をあさり、キャンディーをいくつか掴みとると、渋々といった様子で右手を差し出した。
それにくすりと小さく笑う。
その手を両手で包み込んでの方に戻すと、ぱちぱちと数回瞬きをして、首をかしげた。
「、いらないの?」
「それはが食べるといいよ」
「む?」
「俺が欲しいのはお菓子じゃないんだ」
頭にクエスチョンマークを並べるを、屈んで抱き上げた。
腕に乗せて、右手で背中を支えて。
いきなり視界が変わったことに驚いて、ぎゅっと肩を掴む小さな手。
不安げな瞳に映った自分の顔に内心苦笑しながらも、しっかりとお菓子の代償をいただく。
ちゅう、という軽いリップ音と共に柔らかな頬にキスを落とした。
ぽっと赤くなるそこ。
は、きゃっ!と言いながら恥ずかしそうに顔を覆い、笑いながら暴れはじめた。
そんな彼女を落とさないようにと支え直し、そして、問いかける。
「。は俺のこと、好き?」
「んー、ふふふふふっ」
「俺はね、大好き、だよ」
ふわふわ甘くて少し苦い
(081117)→(081216)
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ハロウィン企画2008
※配布期間は終了しています。