「ほら、。よろしくお願いします、って」
「よろしくおねがい、しまあす」
「じゃあ、頼むな」
 ぺこりとお辞儀をするの頭を撫でながら苦笑する仁王。
 実家に帰るらしく、さすがに連れていけないからということで、俺のところにを預けにきたわけなんだけども。
 いいか、ちゃんといい子にしとるんじゃぞ?とか言って、なかなか離れようとしない仁王を、間に合わなくなるよ、と無理矢理送り出して荷物のチェックをする。着替えとお風呂セットと…あ、食費はいいって言ったのに。まったく、変なところで律儀なやつだ。



 お昼ご飯を食べて、のんびりと読書をしていると、ちょいちょいと袖を引かれた。なんだろうと思ってを見ると、いそいそと俺の膝の上に移動してきて、ぷれぜんと!と笑顔で手を差し出す。
 手のひらの上には桃色の球体がひとつ。
「なんだい?」
「ゆっき、こないだたんじょうび!」
「よく知ってるね」
「まさがいっとった」
 うーん。
 若干、仁王の言葉が移っちゃってるけどいいのかな、これ。やっぱり仁王に、ちゃんと標準語を話すようにと言うべきか。
 でも、それにしても、仁王は俺の誕生日を覚えてたんだ。中学や高校時代は、よく集まって騒いだりしたけど、流石に最近はなくなった。何だかんだいってみんな忙しいからなあ、仕方ないといえば仕方ないんだけど。
「あめ、いらない?」
 不安そうに眉尻を下げて俺を見上げる。思わず笑いそうになって、手のひらから飴玉を受け取って口に含むと、桃の味がした。
甘い。けど、嫌いじゃない甘さ。
「ありがとう、おいしいよ」
 そう言って頭を撫でると、くすぐったそうに笑って、俺の胸にぐりぐりと顔を押しつけた。小さく、おめでと、と照れながら言うのが余りにも可愛くて抱きしめたら、からもふんわり桃の匂いがした。
春風、桃色
(あー、俺、仁王じゃけど)
(どうしたんだい?)
(いや、別に用事とかじゃなくて)
(うん?)
(あいつ何しとるかなって。め、迷惑とかかけてなか?)
(…切っていいかな)




(080307)