「まさっまさっ!」
朝飯の用意をする俺のズボンの裾を引っ張る小さな手。
ちょ、おまっ、手!濡れてるから!
「ズボンで拭くなよ、タオルで拭いてきんしゃい」
そう言う俺を笑顔で無視して、裾を引っ張り続ける。
あーあ、床も濡れてるし。誰が拭くと思ってるんだ。
「ごはん、なにっ?」
「んー、サンドイッチ」
「とまともいれるの?」
「うん」
「えっ、やっ!とまといれちゃ、やーっ!」
「やー、じゃなか。トマトも食べんと」
さっきの笑顔から一転、膨れっ面。不細工極まりない。
嫌だ嫌だと俺の足を叩くから地味に痛い。俺だってトマトは好きじゃないのに、保護者の好き嫌いはよくないですよ、とか柳生が言うから。
仕方なくだ、仕方なく。わかれ馬鹿。
「もーっ、やー、なのっ!まさの、ばかっ!はげっ!」
そう暴言を吐いたあと、洗面所の方に走って行ってしまった。がちゃん、と音がしたから、鍵をかけて閉じこもったな、あいつ。
馬鹿はおまえだ。
しかも誰がはげだって?はげはジャッカルだろ。まったく、めんどくさい上に可愛げない。これだからガキは嫌いなんだって。
こいつと一緒に暮らし始めて結構経つけど、最近はちょっと反抗的。
あの馬鹿共と遊ばせたのが悪かったのか。特に口が悪くなった気がする。俺のことをはげとか言いやがるし。あいつら、今度会ったらしめてやる。
そんなことを考えながら準備をする。まあこんなもんだろ。俺用にコーヒー、あいつ用にオジジュースを用意して完了。うん、悪くない。
時計を確認。が籠もり始めて10分。多分、そろそろ。
あと数分後には、鼻をすんすん鳴らしながら洗面所から出てくるであろうを想像して、思わず笑みがこぼれた。
憂鬱ホリデー
(080306)