「、」
名前を呼ばれて振り返ると、予想外に不二の顔が近くにあって、反射的に後ろに下がってみたけど、後ろは本棚で。
それをいいことにさらに近づいてくるやつの顔をどうしようかと思い、仕方なく自分の手で寸止め。
左手はやつの肩。
とりあえず危機は免れたらしい。
「空気を読んでくれると嬉しいんだけどな」
手にあたる息がくすぐったい。
不二はにこやかに、かつ不満げに言うけど、このまま流されてたらこの間みたいなことになりかねない。
あえて何とは言わないことにしておくけども、まあひどい目にあったんだ。
いくら抜けてると言われるあたしの頭でも、それ位の学習能力はついているし、そう何度も同じような手には引っ掛からない。
危機回避力はちゃんと向上している、はず。
「空気読めない子は嫌われちゃうよ?」
「優先すべきは身の安全ですから」
「いやだな、そんな物騒な」
それ位の気合いがないとこの男とやりあっていけないと思うし、放課後、図書室、生徒少、死角という条件が揃ってしまえば、なおさら。
これおつりがくるんじゃないかな。
もう早く家に帰りたい。
そんなあたしの心中を察してか、いや、察してくれるなら放してくれるのが一番有り難いんだけど、不二は自分の顔を押さえていたあたしの手を掴んで、指先にキス。
残念なことに、あたしの身体はそれだけで反応してしまうらしく、さっきまでの抵抗は限りなくゼロへ。
いつのまにか不二を防ぐ両手は不二の左手の中、ついでに言っておくと、右手は腰あたりに。
為す術なしとなってしまったあたしは、ふじ、と呼ぶしかなくて。
すると、しょうがない子だね、と耳元で囁き、こめかみ、耳、頬と順々にキスを落としていった。
溺れた人魚と心中
(080229)