「Trick or treatー!」


可愛らしい掛け声に後ろを振り向くと、自分に向かって飛んでくるナイフが目に入る。
それを辛うじてかわすと、顔の真横を銀色が通りすぎていった。そして、さくっと軽い音を立てて後ろの壁に突き刺さる。
振り返ってそれを確認すると、つい先程まで私の頭があったところに、寸分違わずにナイフが突き刺さっていた。


つうっと背中を嫌な汗が伝う。
あ、危なかった…!


ナイフを投げた張本人の方へ顔を戻すと、頭の後ろで腕を組んで、満足そうに笑っていた。

貴方が素晴らしいヴァリアークオリティをお持ちなのはよーくわかりました。
だがしかし、それをわざわざここで披露する必要性は何処にあるんだい、ベルくん?
んん?

まったく、冗談じゃない。
避けられたものだからいいものを。

ちょっとお前、そこに直りなさい。
こら、頬を膨らませたって駄目なんだから。


「おれ、王子なのに…!」
「黙れ、馬鹿王子。刺さったらどうすんの」
、ちゃんとよけられたんだからいいじゃーん」
「よくない。なんでナイフを投げるかなあ」
「ししっ、いたずら?あ、ねえ、おかしはないの?」
「悪戯したんだから、お菓子はなしでしょ」
「え、なんでっ!」


のケチっ!ばかっ!と頬を膨らまして騒ぐベル。


誰がケチですか、誰が!

それにお菓子か悪戯か、どっちかに決まってるでしょうが。
orって聞いたじゃないの、あんた。
両方だったらandじゃないか。

え、王子だからいい?
んなわけあるか。


「ばかの、ケチー!」
「ベル、その辺にしておきなよ」
「なんだよ。うるせーよ、クソチビ」
がケチなのは、今に始まったことじゃないじゃないか」
「ちょっ、それ、マーモンには言われたくないんだけどっ」
「ムッ、僕はケチなんかじゃないよ」


がめつく金を溜め込んでいる奴の台詞ではないと思うんだ、少なくとも。

どちらがケチかにについて、マーモンと言い合っていると、下の方からちくちくと突き刺さるような視線を感じる。

恨みがましさを孕んでいるのは、きっと気のせいじゃない。
マーモンも気付いたのか、ベルも仕方ないね、と言って霧散して消えた。


それを確認してベルに向き直ると、本人はむっつりと黙りこくっていた。

騒いでいたと思えば、今度はだんまり。
機嫌、悪いなあ。
お菓子ひとつでここまでとは。

ああもう、非常にめんどくさい。
きっとここでお菓子をあげればベルの機嫌は戻るとは思うけど。

しかしあげないと言った手前、今更あげるというのも癪に障る。
だが、めんどくさい。
しかし、癪に障る。


だが…切りがない。


「あー…、ベル?」
「………」
「はあ、」
「ふんっ」
「まあ、一応あるにはあるにはあるんだけどね、お菓子」
「………」
「あそ。別に、いらないならいいけど」
「そんなこと、言ってないし」


ぷいっとそっぽを向きながらも、手をこっちに伸ばす様子に、思わず笑みが漏れた。
ちょこんとその上に乗せてやると、ベルの纏っていた不機嫌オーラが次第に消え失せていく。

あげたものを物色する王子を横目に一息。

さあて、王子様のご機嫌も戻ったことだし、部屋にでも戻って昼寝でもするか。
まだ夕食までだいぶ時間がある。

あくびをひとつ、踵を返してその場を立ち去ろうとすると、くんっと裾を引かれる感覚に、今度はなんだと足元に視線を落とした。


。おんぶ」
「は?」
「足、しびれたんだもん。のせいだしー」


おんぶおんぶ、と両手を伸ばす。

元をたどれば、自業自得だと思うんだけど。
ちゃんと反省してるのかな、この子。

なんて、してるわけないか、ベルだし。


放置して部屋に戻りたいのは山々だけど、このまましておくのもなんだか気が引けて、仕方なく背中を向けてしゃがむ。
首に腕が回されて、背中に重みを感じた。
ちゃんと掴まったのを確認して立ち上がる。
立つときに僅かによろけたのは、この8歳児のせい。
思っていたより、重い。


それにしても、どうして私がベルをおんぶする羽目になっているんだ。
こういうのはあの銀髪の仕事だろ。

…あ、そういえば。
あいつは長期で海外だったっけか。

通りで、いつもよりうるさいわけだ。
兄貴分がいないから、被害がこっちまで来るわけね。

はあ。
まったく、あいつが甘やかすからベルはこうなんだ。
躾くらい、しっかりして欲しいもんだ。


ぶちぶちと心の中でスクアーロの文句を言いながら、無駄に広い屋敷の廊下を歩く。

ふと背負っているベルが段々重くなってきていることに気が付いた。
さっきから妙に静かだと思っていたら、眠ってしまったらしい。
小さく声をかけても返事はない。

ううむ。
どうやら、本格的に寝入ってしまったようだ。

目的地変更、こりゃ部屋に寝かせてやるしかないな。
ほんとに、世話が焼けるお子様なんだから。






次第に重くなる背中に溜め息を吐きつつ、小さな寝息を立てているベルを、起こさないようにと、静かに背負いなおした。















ギブ アンド ギブ




















(081201)→(081216)



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ハロウィン企画'08フリ夢


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